よしとが小学校に入って間もないころ、
「ごはんですよー」と母親の声がした。
よしとは急いで食卓についた。お腹が空いているからだけではない
父親の箸箱が怖いのだ、それは木製の夫婦箸箱で長さは約30センチ
くらいだ。気の短い父親は子供たちに教育する前に必ず箸箱で頭を
たたき、それから子供たちに注意を促すのが常だった。
だから子供たちは食事の時、常にその箸箱が気になって仕方が無かった
父親はよしとに「よしと、明日からお前が責任を持って鶏の世話をしな
さい。」といい、よしとは直ぐに「はい」と答えた。
よしとはそれまでにも、姉や兄が鶏に餌を与えるのを手伝っていた為、
何の不自由も無かった。
鶏は、やわらかい野草が好きだった。まな板の上に野草を載せて、父親が
研いでくれた包丁で、よしとは細かく刻んだ。よしとは右手の人差し指
の付け根が痛かった。
やわらかい野草といっても、人間が食する野菜に比べると、2倍も3倍も
硬いのである。
小学校1年生のよしとには、かなり苦痛な鶏の餌やりであった。